2007.6.6
昨年の冬のことである。夜中の2時過ぎに携帯電話のベルが鳴った。「なんてん本社」の表示が出たので転送だということは分かった。でもこんな遅くに何事かと思って恐る恐る受話器を取った。「もしもし?なんてんさんですか?」と遠慮気味な男の人の声であった。「はあー」と探りを入れるような返事をしたら、「すいません、石部の交番です。」と今度ははっきりとした声に変わった。私はびっくりして、受話器を持ったまま飛び起きて正座をした。
車に乗って交番へ着くと、表で若いお巡りさんが待ってくれていた。「社長さんですか・・・けい子さん中に居てはるんですが、絶対怒らんといて下さいね。絶対にですよ。」と私の肩を押さえながら頭を下げられた。「ええー、それは分かっています。」と答えながら一緒に中に入った。
いつもの出勤の格好で、例のナップサックを横に置きながら、神妙な様子でお茶を呼ばれているけい子さんと目が合った。「何時やと・・・」というセリフを飲み込みながら「けい子さん、迎えに来たで、ありがとう言うて帰ろうか。」と声を掛けた。
しっかりとお茶を飲み終えて、「うんっ、ありがとう!」と言ってさっさと車に乗り込んでしまった。顔の表情が緩んだところを見ると、交番に来たことは分かっていて少しは不安だったのだろう。エンジンをかけて暖房を確認してから、お巡りさんの話を聞いた。
「夜中の1時過ぎに石部南のOさん宅から電話がありました。玄関先に見知らぬ人が腰掛けています。気持ち悪いのですぐに来て下さいという通報でした。急ぎ駆けつけ保護した次第です。言葉がはっきりしないので分かりにくいんですが、仕事に行くのに迷ってしまったと言われているんですが・・・なんてんさんは夜中も仕事があるんですか?」とやや不審気な顔つきでの問い掛けであった。
「いや夜中の仕事はありません。早いときは5時ぐらいからなんてんに来ることもあるんですが、夜中というのは初めてです。おそらく時間を間違えたのだと思います。それにしても迷惑をかけました。すいませんっ。」と頭を下げた。
「いやいや、私に謝ってもらわなくても・・・Oさん宅に朝になったら電話でも入れておいて下さい。今回は口頭注意ということで・・以後気をつけてもらえば結構です。ああ、そうそう、くどいですが、帰ってからもけい子さん怒らんといて下さいよ!頼みますよ!はい、ご苦労様でした。」と軽く敬礼のポーズで応えていただいた。
そして一緒に車の所まで来て「けい子さん、もうこんなに早く出勤せんといて下さいね。」と声をかけていただいた。その時の若いお巡りさんの、とびきりの明るい顔が今持って忘れられない。
私たちが、地域の中で普通に暮らす、共に働く、共に生きるという取り組みを始めて25年余りになる。その中味はといえば失敗の連続で、そのたびに肝を冷やしたり、落ち込んだり・・・今度こそもう止めようと思ったりしてしまう。
そんな時救っていただくのは、殆どがこの石部の地域の人たちである。今回も若いお巡りさんの"おもいやり"に 力をいただいた。日頃、実践を通して人や地域や社会を耕すなんて偉そうなことを言っているが、いやいや耕されているのは私たちの方であったのである。